Challenge
#14 農薬も肥料も使わない自然栽培で、
美味しいお米ができました!
岩塚製菓では2017年より、農薬や肥料を使わないで稲を育てる自然栽培を行っています。
大量生産・大量消費の時代が終わり、日本の農業にも変化が訪れる
農産物の加工品は原料より良いものはできない――。岩塚製菓は高品質な原料を使用することにこだわり、原料の米には日本のお米を100%用いてきました。そのこだわりが実現できるのは、美味しいお米を育てくださる日本中の農家の皆様のおかげです。しかし今、日本の農業に大きな変化が訪れ、農家の皆様にも影響が及んでいます。
科学の進歩により、農産物は安定して生産されるようになりました。一方で、農薬や化学肥料の散布により土壌が弱り、農産物の味や栄養価が落ちているという評判もあります。さらには、農業に従事する人が少なくなる中で耕作放棄地が増えているという問題も生じています。このような状況下において日本の農業はどのような方策を取ることができるのでしょう。
日本のお米を使い続け、また米どころ新潟の企業として岩塚製菓は農家の皆様とともに実際に身体を動かしながら考えてみることにしました。それが、岩塚製菓が米の自然栽培を始めた理由です。
未来の農業を考えるため、実験的に米の自然栽培をスタート
現在日本で広く普及している慣行栽培は、稲を傷つける虫や動物、あるいは栄養を奪ってしまう雑草を農薬や除草剤で取り除き、稲に必要な栄養素を化学肥料で効率的に与えるというものです。一部では、野菜や動物由来の有機肥料を与え有機栽培を行っている農家さんもいらっしゃいます。
効率的な慣行栽培は作業の負荷を下げて米の収量増加に寄与するもので、日本人の食料確保にはなくてはならない手段でした。しかし少子高齢化により米の消費量が減り米が余剰になりつつある現在、これからも従来の農業を続けていくことには疑問が生じます。
世界中で環境保護への意識も高まる昨今、これからの農業はより環境負荷の少ないものへと移行していくのかもしれません。岩塚製菓では、なかでもより循環型で環境負荷の少ない自然栽培に未来の農業を考えるヒントがあるのではないかと考えました。自然栽培とは農薬も肥料も使わないで作物を育てる非常なシンプルな栽培方法です。
農家の皆様と支え合って成長をしてきた岩塚製菓は、まずは自然栽培とはどのようなものなのか自社で実験的に栽培をしてみることにしました。
肉体労働が多く生じる自然栽培
選んだ田んぼは岩塚製菓飯塚工場のすぐそばの天神谷。農薬を使用しない自然栽培は虫を多く引き寄せることがあるため、他の農家さんの迷惑にならないよう谷の中にある場所を選びました。場所の名前の縁起が良かったことも選定の理由です。
栽培は近隣の農家さんやJAの職員さんにご協力をいただきました。農業に詳しい方ほど現実的な意見をくださり「自然栽培は難しい。収量がゼロになることも覚悟した方がいい」と言われることもありました。
農作業は社内の有志を募って実施。1年目は何もかもが手探りで、草むしりの大変さや伸びすぎてしまった稲を刈り取る作業の困難さが身にしみました。
しかし収穫までの経験は参加した社員に多大なインスピレーションを与えるものとなり、特に圃場に現れたカエルやオタマジャクシ、バッタ、トンボといった生き物との遭遇は環境保護の重要性を十分に感じさせるものとなりました。
収量は半分ながらも白く輝く美味しい米に
結局、1年目は慣行栽培の半分ほどの収量を得ることができました。まったく収穫ができない可能性もあったため、結果は上々といえます。
しかし社員たちの驚きは精米後にありました。他の米と比べてみると、色が非常に白かったのです。そして実食してみるとさらなる驚きが。甘みと粘りが強く、特に子どもたちが強く反応しおかわりを要求するようになりました。食べた人の一部からは「昔食べたような懐かしい味わい」という感想もあがっています。
圃場の栄養素が少なくなってきてからが勝負
実は、自然栽培の難しさは2年目以降にあります。1年目は圃場に残された栄養があるため作物はよく育つのです。
天神谷の米も2年目は収量が落ち、3年目はただでさえ少ない収量のさらに半分がイノシシに荒らされて使い物にならなくなってしまいました。電気柵を設置した4年目(2020年)の収量は前年よりは多いものの穫れた量は慣行栽培で育てたときの3分の1程度です。
しかし質は非常に高く、米の美味しさを測る食味係数は1年目が78点、2年目が86点、3年目が93点でした(4年目は未計測)。天神谷の米は粒がやや小さくなる傾向があり、その点がマイナスポイントとなりました。しかし食味係数は80点を超えると非常に美味しいといえるため、天神谷の自然栽培は数値的にみても高品質であることが証明されています。
食で地域と国を支えていく
収量があがらないため、天神谷の自然栽培米は市場価格が通常の5倍近くになります。これではまだ事業化は成り立たず、実験の域を出ることはできません。栽培を始めた当初はこの自然栽培米を使った米菓づくりを標榜していましたが、それが叶うのは少し先のことになりそうです。
しかしこのような取り組みによって、岩塚製菓は農業の未来を考え、いずれは地域経済や日本の農業に貢献していきたいと考えています。
岩塚製菓はもともと地域の人々が出稼ぎにいかずに家族で冬を越すために作られた企業。その理念は今になっても生き続けているのです。